読んだ本を羅列するエントリー~3月前半

SF

「天地明察」冲方丁 角川書店
帰りの電車で読み始めたら読みやめることができず、駅前の喫茶店にそのままこもって一気に読了した。これだけ読んでる間夢中になった本も久しぶり。
渋川春海という史実の人物を主人公にした歴史小説で、登場する数学者や碁の伝説的名人などは実在するが、かなり小説的脚色を施されている。改暦をメインテーマに据えた熱いプロジェクト物であり、江戸時代の数学、天文学、囲碁などの学術をテーマにした科学・時代小説でもある。
冲方丁といえば「マルドゥック・スクランブル」は普通だったが、それ以降は文体に懲りすぎて読み手に努力を強いる文章が印象的な作家だったが、今作では同じ人が書いたのかと思うくらい読みやすい。一方でエキセントリックで魅力的なキャラクター描写は相変わらず達者だし、この人の作品に共通する熱さも健在、といいところが全部出た現時点で間違いなく代表作になる1冊。このネタを高校生の頃に発掘たことに感心したし、安易に書かずに我慢して自分の力量が充実してきたベストのタイミングで書き上げた点が素晴らしい。

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「ペートリ・ハイル!~あるいは妻を騙して釣りに行く方法」朝暮三文 牧野出版社(図書館)
サブタイトルが秀逸なので読んでみた。渓流や湖沼でのえさ釣りくらいしかやらないので、本書が扱っているフライフィッシングはまったくの専門外であるが、趣味にのめりこむ人の話は何であれ面白いもの。
内容は、釣り好きの高じた著者がフライフィッシングの本場である欧州での釣りに憧れを抱くようになり、新婚旅行にかこつけてのフランスで釣りを皮切りに、毎年一回、海外旅行に妻を連れて行き、計画から実際の手配までを担当する代わりに、旅程の1~2日だけ釣りの時間を捻出する苦闘をつづった物。
インターネットもそれほど普及していなかった時代の話なので、許可証の入手方法やポイントもまったくわからないまま、現地で限られた時間の中奮闘する姿が素晴らしい。文章に上品なユーモアのセンスがあり、なかなかに楽しめる一冊。釣り人にとってウェールズの湖沼地帯で釣りをするという夢は、自転車乗りに例えれば、ラルプ・デュエズやガリビエ、モンバントゥーを走るようなイメージだろうか。
書名は海外で釣り人同士の挨拶に使われる挨拶の決まり文句。
「ペートリ」はイエスの弟子で元漁師のペトロのこと、釣りの守護神的な役割らしい。ハイルは敬意を称す呼びかけで(「ハイル・ヒッ○ラー!」で有名なあれ)、「ペトロ様のご加護を!」→「よい釣果がありますように!」といった感じで使われるらしい。かっこいい。

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「スポーツ発熱地図」藤島大 ポプラ社(図書館)
ナンバーの連載されていた文章をまとめたもの。
メジャー、マイナーを問わず独自のスポーツが土地に根ざしている地域を巡り、競技の観戦や中心人物へのインタビューといった取材だけでなく、土地の雰囲気や地域の一般住民の思いや考えをうまくすくい上げている。半分はスポーツ、半分紀行エッセイのような一冊。
近藤さんの「木曜日のボール」が無くなってしまってから、ジャック・ティベールとこの人のコラムがサカマガにかろうじて目を通す数少ない理由のひとつ。サッカー批評はたまに買うがエルゴラも最近は買わなくなってしまった。
閑話休題。浦和の記事(J2時代の駒場での札幌戦)に惹かれたので読んでみたが、ほかの文も一遍一遍丁寧な仕事でなかなか読ませる。適度に力をぬきつつも熱量のある文章が多く、いい本だった。特に好きな一遍は青森県津軽郡の相撲を取り上げた一遍。

「アメリカン・ゴッズ」(上・下)ニール・ゲイマン 金原瑞人(図書館)
ニール・ゲイマン作品は初読。
細部は面白いが、終わりの方でまとまりの悪い印象を受ける。各エピソードごとには完結はしているけれど、それらが効果的に連動していない感じ。組みあがって一つの綺麗な完成形が見えるような作品が好きなので傑作!とまでは思えず。
「ヴァイオリンのゲーム」を初めとする詐欺手管など挿入される小話がいちいち面白い。凍りついた湖面に置いた車がいつ沈むかギャンブルなど。
キャラクター造形は達者で、とくに中盤から登場する少女が魅力的ですばらしかった。長い小用をすませて戻ってきた主人公に対して「待っている間に帝国が2つくらい興亡した」とか気のきいた台詞を口にするファーストシーンもいいが、「わたしがどれだけのことを信じられるか」について熱弁するシーンがこの作品の肝となる名シーン。それ以降あまり活躍せず残念。もったいない。

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