読書メモ 「神器―軍艦「橿原」殺人事件(上)(下)」奥泉光


「神器―軍艦「橿原」殺人事件(上)(下)」奥泉光 新潮社(図書館) 読了
太平洋戦争末期の敗色濃厚な時期、軍艦「橿原」は謎の密命を帯びて出航した。艦内のほとんどの人間が作戦内容も目的地も知らない状況だ。後乗してきた陸軍士官ら怪しい同乗者たちに鼠の大量発生、ドッペルゲンガーの出現と艦内は不吉な影に覆われている。どうやら過去に連続殺人事件が起きた艦底の第5倉庫にすべての秘密が隠されているらしい…。

彼の小説は洒脱なユーモア感覚と軽さのある文章と、戯画化された登場人物が魅力で、その長さをだらだらと味わうのが楽しいのだが、今作では「日本人論」という重いテーマを中心に据えていて、いつもにくらべ陰鬱な気色も強い。
軍隊内の苛めやしごきの、甲板整列のバッター、往復ビンタ等について描写するような嫌なシーンはなかなかのもの。ユーモアの衣をまとったその影から、時おり垣間見える厭世的な暗さがいい感じ。

ただ決してつまらなくはなかったが、長さに見合った満足感を得たかは微妙だった。「鳥類学者のファンタジア」が彼の作品では一番好きだが、今回は重いテーマをいつもの軽い文体でやっていてなんだか座りの悪さを感じた。

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