最近読んだ本を羅列するエントリ~5月前半

SF
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「ようこそ女たちの王国へ」 ウィル・スペンサー 赤尾秀子 ハヤカワ文庫
本書の舞台は男性の人口比が5%以下という世界。
男性にとってはユートピアかと思いきや現実はそう甘くはない。支配層は人口比に従って女性が占めているし、家をつかさどるのも当然女性。あまりに希少である男性は保護対象であり、家の財産として家畜のように管理されている。婚姻も家の都合で決定され、嫁ぎ先によっては30人もの不器量の妻を相手せねばならぬ、というかなりハードな生活を強いられる。
物語は天性の美貌と聡明さを持つ主人公の少年が、ふとした縁で女王と恋に落ち、幾多の危機と宮廷に張り巡らされた陰謀を乗り越えて、幸せを掴むというシンデレラストーリー。

ジェンダー的な強い問題意識を持って書かれた作品ではなく娯楽作に徹しているが、性差による現実世界との差異がシチュエーションコメディとしてところどころ笑える。自身の処女性(童貞性?)にこだわり純潔をつらぬこうとする主人公とかなかなかに面白い。王女姉妹はじめ、女性キャラが多数登場するが、それぞれ魅力的に描かれていて男装の麗人フェチにはたまらない。深夜アニメの大部分を占めるハーレムアニメも、これくらいひねった設定のものがあれば面白いのに。

ウィル・スペンサー作品、既刊分は読み終えたがこれが一番面白かった。この人はたいした話を書いているわけではないが、出落ち気味な一風変わった設定に、自分の欲望に忠実に突っ走るストーリー展開でついつい読んでしまう。 

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「彷徨える艦隊1」ジャック・キャンベル ハヤカワ文庫
ミリタリSFのシリーズ物。全5冊の1冊目。
救命ポッドの冷凍睡眠から100年後に目覚めたギアリー大佐。死んだと思われ、伝説の英雄として崇められているギアリーの手に、敵の包囲網の中にある絶体絶命の艦隊の運命が委ねられた・・・。

ハリントンやシーフォートに比べ重くなく、エンタメに徹している。冒頭のスピード感(というか強引な展開)は息もつかせない。読みやすいし、変に深刻ぶらないからさくさく読めるが、反面、主人公があまりキャラが立っておらず、他の登場人物もステロタイプで、補佐する女艦長、リオーネ皇女以外は魅力に乏しい。
興味を惹かれるようなSF設定もガジェットも特に無し。ストーリー的には次巻以降、異星人が出てきてからが本番のようだ。

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「禍文-マガツフミ-」 田中啓文 徳間書店
別の媒体で発表したホラー系の短編をプロローグ、エピローグ他を追加して短編集の体裁にしたもの。
しかしあまり効果が無い。あとがきで「伝奇原理主義宣言」みたいなのを謳いだして、おおっと思ったら途中でひよった。
収録作では「恐い目」が一番イヤな話。生きたゲテモノ食いの場面と、主人公が寄生虫によってもたらされるおぞましい病状がすばらしい。
収録作:「取替えっ子」「天使蝶」「怖い目」「妄執の獣」「黄泉津鳥船」

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「猿駅/初恋」田中哲弥 早川書房
田中哲弥はたぶん始めて読む。もしかしたらSFマガジンで何か短編を読んでいるかも?10篇の短編を収録。
幻想文学・ホラー風(猿駅、初恋、ユカ、雨)、不条理シュールギャグ(遠き鼻血の果て、「か」)、悪趣味エログロスラップスティック(ハイマール祭、羊山羊)にSF風青春恋愛小説(猿はあけぼの)と、それぞれ味付けは異なるが、どれも独自の笑いの感覚と、ふざけてるようで達者な文章で外れ無しのハイレベルな好短編集。ただ「ハイマール祭」「げろめさん」「羊山羊」のあけっぴろげのエロ描写はあまり得意ではない。
素晴らしかったのが、少年期の純情と背徳感を瑞々しく描いた「初恋」。ケッチャム「隣の家の少女」の嫌な話度を緩和して、その精神だけを昇華させたような幻想短編の傑作。
他ではコミカルな設定と終盤の叙情性のバランスが完璧な「か」、神経症ホラー短編の見本のような「雨」の2編が好き。

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「あなたのための物語」長谷敏司 ハヤカワJシリーズ
「SFが読みたい!」でベスト2にランクイン。
物語は主人公サマンサの死の描写から始まり、読者は結末を承知の上で、発病し病状が悪化していく過程をつぶさに見守ることになる。SFではめずらしく「死」の意味を思索し、突き詰めていく話。下手をするとケータイ小説のようなお涙頂戴の物語に堕しかねないところだが、独特の突き放したような文章で、異

様な緊張感の中で物語が進行する。
SFマガジン2月号の短編は期待外れに感じたが、本作はスタイルと内容がかみ合っていて効果的だった。

意識を持った人工知能<WANNA BE>が物語を書くという設定がいい。
機械が人間性というものを獲得できるか、死という概念を捉えることができるのかというテーマの追求がが面白い。名著の分析を書かせ「お前の感想文はなっちょらん」とけなし、物語の実作にはダメ出ししまくるサマンサに対し、けなげに「何かお役に立てますでしょうか」とサマンサの身を気づかい、次の本を書き上げては読んでもらおうとする<WANNA BE>がかわいすぎ。

泣かせがいやらしく、あざとさを感じる場面は多々あった。母親との対面シーンなんかここで泣かせようという作者の意図がみえすいている(それに手もなくやられてしまう自分の単純さが嫌になる)。

文体、構成、テーマと意欲的な作品だし、SFとしてのレベルも高いと思うが、好きな小説ではない。

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