昔ゾンビ映画に凝っていたときに、中古でも、ハピネットの新作でも、手あたり次第に目についたものをぜんぶ購入していた時期があった。50本くらい(?)続けざまに鑑賞したその中に、「レイク・オブ・ザ・デッド」(原題:Ghost Lake)というタイトルがあった。日本では上映されず、DVDセルのみだった作品。
ゾンビ映画というジャンルは、「スタージョンの法則」の模範的な証左であるわけだが、それでもごく稀にフルチの「ビヨンド」のような神品に出会える、かすかな希望を胸に駄作の山を積み重ねたものだが、まぁそんな話はおいといて。
「レイク・オブ・ザ・デッド」は箸にも棒にもかからぬような、よくある凡百のゾンビ映画で、特にひどい出来というわけではなかったが、エンディングであきらかに映画の格に不似合いな、詩情と香気あふれるヴァイオリン曲が、ハープの伴奏に乗って流れてきて、驚かされた。
エンディングを巻き戻して、スタッフロールを目を皿のようにして読むと、どうやらC.Saint-saensの「Fantasy op.124」という曲らしい、とわかる。聞いたことのない曲だが、重音の飛ばし方など「序奏とロンドカプリチョーソ」や「ハバネラ」なんかを思わせるところもあり、たしかにサン=サーンスっぽい。
映画字幕では演奏はヴァイオリンはクリストファー・ファレル?となっているが、ウェブで検索してもひっかかってこない。邦題は「幻想曲op.124(ヴァイオリンとハープのための幻想曲)」というタイトルである由。最初に見つけて買ったのはX(イクサ)という邦人デュオのCDだった(ヴァイオリンは辺見康孝)。
通して聞くと、やはりこれは知られざる名曲だと確信。とくに後半部分で、ハープの三連符の通奏低音の上を、ヴァイオリンが主題を発展させていくあたりが絶品。気品があって、知的で、技巧的にも華やかで、独特のムードがあり、サン=サーンスのいいところを全部取りしたような作品だ。
爾来、この曲を収録しているCDを見つけたら入手するようにしているが、なかなかこれはというものにはあたらなかった。
あまりメジャーどころは録音していなくて、テツラフやキュッヒルの録音があるくらい。テツラフのものはライブ版。めちゃくちゃうまいが少しテンポの揺らし方やダイナミクスが好みでなく、キュッヒル盤は教会での録音で、風呂場で弾いているような残響が×。
現在6種類の演奏が手元にあるが、いちばん気に入ったのが、中古CD屋で掘り出したジェラール・プーレによる演奏だった。

この演奏でプーレというヴァイオリニストを認識した。基本速めのインテンポで、キレとスピード感があって、停滞しない演奏。音色も流麗で微妙なとろみがあって、重音のスピカートも歯切れがよく、曲のイメージにぴったり。この曲の決定版、と断言してしまおう。
↑の演奏にひとめぼれして、たしか前にこの人のCDを何か買っていたはず、と手持ちのCDをひっくり返して在庫の中から見つけたのが、ヴュータンのヴァイオリン協奏曲第6番、第7番、「アメリカへの挨拶」を収録したCD。

学生オケ時代に、演目の参考のために買ったが、線が細い演奏という印象で、3回ほど聴いてそのまましまっていた。今聴くと、スケールで始まる6番は多少地味だが、7番の第1楽章や、「アメリカへの挨拶」はプーレらしい品の良さと音の切れだけでなく、サービスたっぷりの茶目っ気も見られて、なかなかの名演だった。
気になった音源をタワレコなどで入手しているが、仏アリオン盤は廃盤が多く、欲しいものがなかなか手に入らないのが残念。それでも最近出た邦盤のものはいくつか入手できた。
「ジェラール・プーレのバロック再訪」

ヴィヴァルディやコレルリ、ルクレールなどのバロック音楽を集めたアルバム。
これはさほど印象に残らず。ヴィヴァルディのラフォリアが聴けたのがおもしろかったくらい。ヴィターリのシャコンヌ(ダーヴィド→シャルリエ編のメジャーなものとは別の作品)もあれ?って感じ。
新譜のベートーヴェンの5、6、7番のソナタ。

これはすばらしかった。スプリングソナタが名演だが隠れた佳曲の6番、2楽章の歌心もよかった。ピアノともども音色がノーブルで本当にいい。重音はもうちょっと長いのが好みだが、様式感を大事にしてる感じ。
他にも何枚かここ数日で入手したが、まだしっかり聴いていないので略。
あとは先日箱根で聞いた実演。
演目は、ヴィターリのシャコンヌとヴィヴァルディの四季だった。
ヴィターリは独奏はもっとも一般的なシャルリエの版で、伴奏は弦楽合奏で三浦秀秋編とのこと、これは初めて聴いた。
プーレのヴァイオリンは、軽くて速いボウイングで空中に音を漂わせるような演奏。どちらかといえば、実音がしっかり聴こえるような奏者が好みだが、彼の音は、大きいわけではないが流麗で、曲の運びも前へ前へ自然に流れていくのがいい。
弓に圧をほとんどかけず、濁った音を出さないのが印象的だった。シャコンヌ終盤に出てくるテーマの4重音なんか、G線は弾いていないのではないかと思うくらい、音をつぶさないように細心の注意を払っていた。
あとは、ちょっとまねできないような弓指定を使っているところがあって、ふつう返すようなところをアップアップやダウンダウンで弾いていてびっくりしたが、音節はちゃんとわかるし、最終的な弓の収支をみると、ああここで全弓を使うためか、みたいな合理が見て取れて、やはりプロの実演で聴くとおもしろいものだ、と感じた。
かなりの老齢とは知っていたが、あとでプロフィールを見たら、75歳!
あの年齢であんなに若々しくみずみずしい演奏ができるんだから本当にすごい、とますますファンになった。
海外の大物演奏家で、これだけ演奏を聴く機会が得られるような(日本とフランスに半分ずつくらい住んでいるため)、一流の演奏家はなかなかいない。
今度は得意とするフランスものを実演で聴いてみたい。ドビュッシーやフランク、ラヴェルにサン=サーンスの1番あたりのソナタをやってくれないかな。
最近メンデルスゾーンのトリオをやったらしいと知った。超もったいないことをした。もうちと早く知ってればなぁ…。

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